100K Ultra Training

初めてウルトラを目指す人にも!ベテランランナーにも!

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矢田夕子コーチのウルトラマラソントレーニング

第7回 ウルトラマラソンでAT値を上げる利点

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ウルトラマラソンを走る時、ほとんどの人はマラソンペースより遅いスピードで走ると思います。
というより、マラソンペースで走ったらウルトラの後半は走れなくなるのが普通です。

マラソンペースというものは大体AT値付近、もしくはやや下の運動強度になります。(AT値・・・無酸素性作業閾値。連載第2回目で詳しい説明をしましたが、ここからが無酸素性運動ですよ!という“無酸素運動と有酸素運動の境目”であり、このAT値とほぼ同じか少し低い運動強度で運動をすると、有酸素運動の範囲内ギリギリ上限でカラダを使っていることになります。乳酸を効率よく消化して長時間運動できるので、「マラソンペース」といえるわけです。AT値のことはしっかり覚えましょう!)

ウルトラマラソンはこれよりも下の運動強度になりますが、AT値が高いカラダであるほうが、運動を遂行できるペースが速くなり目標のタイムに近づきます。
また、完走目的でもAT値が高いほうが、ウルトラマラソン時の運動強度が低くなるので楽に走れます。

どういうことか? 下の図を見てください。

AさんとBさんが同じ目標タイム、100kmを10時間で走りたいとします。
AeT値のペース、心拍数は一緒だとします。(AeT値・・・有酸素作業閾値。有酸素運動から無酸素運動の要素が含まれ始める境目。)

100kmを10時間=10kmを1時間ですから、レースペースは単純計算で6分/kmと設定。
AT値がAさんは4分/km、Bさんは5分/kmだとすると、AT値に対してレースペースがそれぞれAさんは約67%、Bさんが約83%の運動強度になります。
同じ目標設定ですが、Aさんのほうが明らかにAT値に対する運動強度が低く、楽に走れるということになります。
また、逆に計算して、AさんがBさんと同じく約83%の運動強度で走る・・・ことを想定すると、Aさんはレースペースを(6分ではなく)4分50秒/km程度まであげることができます。

さらに、「AT値に近づくと糖質代謝が優位になっていく」ことも第2回連載でお伝えしましたが、いまAさんとBさんを見るとレースペースがAT値に近いのはBさんですから、Bさんのカラダのなかではより糖質代謝の割合が増えています。
身体に蓄えておく糖質量は脂質量に対して多くはないので、補給していかなくてはいけません。BさんはAさんより補給を必要としているわけです。

ご存じの通り、補給が増えると内臓に負担がかかり、嘔吐や腹痛の原因になることがよくあります。
ウルトラマラソンは長いので誰でも補給は必須ですが、補給トラブルが少なくなるよう、AT値を上げておくことは重要です。

ウルトラマラソンの自己ベスト更新や完走という“目標タイムでのフィニッシュ”を達成するために、いかに最適なペースで走り続けることができるか。「フルマラソンよりゆっくりペースだから大丈夫」と簡単にいくわけではないことをよく考え、ウルトラマラソンの練習でも、AT値を上げていける内容でトレーニング計画を作りましょう。

●よくペースを上げて走っている人
第2回連載で出したAT値の心拍数付近でペース走やビルドアップ走を行いましょう。
AT値でしたら30分程度、少し下の心拍数でしたら1〜3時間はできます。

●普段あまりペースを上げて走っていない人
まずはジョギングの後半10分程度スピードを上げて走ってみましょう。慣れてきたら徐々に時間を長くしてみましょう。

アップヒルのトレーニングやショートインターバルに慣れてきた頃に、ぜひこの練習を取り入れてください!

コラム:運動前のストレッチと運動後のストレッチ

ストレッチ。SNSにも多く動画が紹介されており、皆さんもよく取り入れていらっしゃると思います。
ストレッチにも種類があるのはご存知でしょうか?

ストレッチには
・反動をつけない「スタティック ストレッチ」
・関節の運動を伴う「ダイナミック ストレッチ」
・筋肉の収縮を活用する「PNF ストレッチ」
があります。

皆さんがよく行っているのは反動をつけないスタティックストレッチかと思います。
トレーニングは速いスピードで筋肉や腱が収縮するのですが、30秒以上のスタティック ストレッチはこの収縮を弱くさせてしまいパフォーマンスが低下するので、運動前には不向きです。
運動前はダイナミック ストレッチを行っていただいた方がパフォーマンスの低下は免れます。
スタティック ストレッチは日々のコンディショニングで行いましょう。

ストレッチは目的に応じて種類を選んで行うことをおすすめします!

トレーニング指導:ジャパンウルトラマラソンチャレンジシリーズ公認コーチ・矢田夕子

実業団選手(パナソニック女子陸上競技部)を引退後、鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師の資格を取得し、2017年4月より東京都多摩市にトレーニング兼治療院施設「TREAT」をオープン。競技者としての経験も活かしながらトレーニング&ケアを市民ランナーに指導している。自身もトレイルランニング、ウルトラマラソンを中心にランナーとして活動中。2016年野辺山高原100kmウルトラマラソン・優勝。2019年サロマ湖100kmウルトラマラソン・8時間33分47秒。ザムストブランドアンバサダー。